デジタル遺品で引き継ぐ人が困ること、生前にできる備え

デジタル遺品の整理は、あとから始めるほど手がかりが減ります。引き継ぐ人が実際につまずくのはどこか、そして本人が生前にできることは何かを、順に見ていきます。

デジタル遺品とは

デジタル遺品とは、本人が使えなくなったあとに残る、デジタル上の持ち物のことです。スマートフォンやパソコンの中のデータ、契約しているサービス、ネット銀行や電子マネーの残高、SNSのアカウントなどが含まれます。

通帳や保険証券のように郵便物や現物が残らないため、引き継ぐ人からは存在そのものが見えません。ここが、紙の時代の遺品整理といちばん違う点です。

引き継ぐ人が実際に困る5つのこと

1. 何を契約していたか分からない

いちばん多いのがこれです。手がかりはカードや口座の明細ですが、表示される名前がサービス名と違うことがあり、何の請求か調べるところから始まります。年に1回の請求は、数か月経ってから出てくることもあります。

2. スマートフォンが開けない

画面ロックの解除コードが分からないと、中のデータを取り出せません。これは相続手続きで代わりに開けてもらうことが難しく、専門業者に依頼しても開けられる保証はありません。写真や連絡先だけでなく、他の手続きに必要な確認コードの受け取りにも影響します。

3. 手続きの確認コードが受け取れない

多くのサービスは、解約や名義変更の確認コードを本人の電話番号にSMSで送ります。携帯電話の回線を先に解約すると、このコードが届かなくなります。月々の料金を惜しんで回線を止めてしまい、他の手続きが進まなくなるのは、実際によくある流れです。

4. 写真や作品のデータが取り出せない

クラウドに保存された写真は、契約が切れると削除されることがあります。支払いが止まったサービスを解約する過程で、中のデータごと消えてしまうことがあります。取り出してから解約する、という順番が必要です。

5. どうしてほしかったのかが分からない

一覧が見つかっても、SNSを残すのか閉じるのか、このデータは処分してよいのかといった判断は、引き継ぐ人には決められません。金額の大小とは別に、これが精神的な負担になります。

生前にできる備え

上の5つは、本人が元気なうちであれば、いずれも短時間で手を打てます。難しい作業はありません。

備え1:契約の一覧をつくる

カードと口座の明細を12か月分さかのぼり、スマートフォンのサブスクリプション一覧を開けば、ほとんどの契約が見つかります。詳しい手順は止まらないサブスクへの備えで説明しています。

備え2:それぞれ「どうしてほしいか」を書く

「解約してよい」「データを取り出してから解約してほしい」「残してほしい」のどれかを添えます。一言あるだけで、引き継ぐ人は判断に迷わずに済みます。

備え3:スマートフォンの扱いを伝えておく

引き継ぐ人に伝えておきたいのは、次の2つです。

  1. すぐに初期化・処分しないこと。写真も連絡先も、手続きに必要な確認の手段も中にあります
  2. 携帯回線をすぐに解約しないこと。整理が終わるまで残しておいてもらいます

解除コードそのものは、一覧に書かないでください。手書きのカードを封筒に入れて保管し、封筒の場所は書き残さず口頭で伝える方法があります。

備え4:パスワードは書かず、保管場所を書く

パスワードを書き写す必要はありません。銀行やサブスクは、正式な手続きの窓口から進められます。書くのは「パスワード管理アプリに入れている」といった保管場所だけで十分です。理由はエンディングノートにパスワードは書いていい?で説明しています。

備え5:作ったことと置き場所を伝える

ここを飛ばすと、これまでの備えが届きません。信頼できる人に、資料を作ったことと置き場所を伝えてください。中身の説明は不要です。

亡くなったあとから始める場合との違い

生前に備えた場合あとから探す場合
契約の把握一覧を見れば分かる明細から1件ずつ調べる
スマートフォン扱いを事前に共有できる開けないことがある
データの保全取り出す順番を指定できる解約時に消えることがある
判断の負担希望が書かれている引き継ぐ人が決めるしかない

あとから探す場合でも手立てはありますが、時間と費用がかかり、それでも見つからないものが残ります。生前の30分が、あとの数か月を減らします。

亡くなる場面だけの話ではありません

デジタル遺品という言葉から、亡くなったあとのことだけを想像しがちです。実際には、入院、事故、認知機能の低下など、一時的に自分で操作できなくなったときにも同じことが起きます。支払いを止めるべきか続けるべきかを、家族が判断できずに困ります。

この意味で、備えは年齢に関係なく役立ちます。契約しているサービスが多い人ほど、早いうちに整理しておくほうが楽になります。

よくある質問

何から手を付ければよいですか

いつも使っているメール、スマートフォン、毎月お金がかかっているサービスの3つからで十分です。全部を思い出す必要はありません。手順はデジタル終活のやり方にまとめています。

専門業者に頼めば解決しますか

データ復旧や遺品整理を扱う事業者はあります。ただし端末が開けない場合など、技術的に取り出せないものもあります。費用もかかるため、生前の準備で減らせる部分は減らしておくほうが確実です。

家族に見られたくないデータがあります

「このデータは見ずに処分してほしい」と希望を書いておく方法があります。法的な強制力はありませんが、意思が示されていること自体が引き継ぐ人の判断を助けます。生前に自分で整理しておくことも、もちろん選択肢です。

デジタルの持ち物を整理してみる

デジタル引継書は、使っているサービスや機器と「どうしてほしいか」を書き残せる無料のWebサービスです。会員登録もログインも不要で、書いた内容は端末の中だけで暗号化して保存します。

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この記事とデジタル引継書は、希望を書き残すことを助けるものです。遺言書ではなく、法律・税金・相続上の効力はありません。実際の手続きは各サービスや専門窓口の公式な案内をご確認ください。